2019年12月27日金曜日

続き

日本における基本的な問題は、警察がまるでお決まりのように被害者の主張を疑うことから始めることだ。立証責任は被害者に課せられてしまう。フランスでは、まずその人を信じたうえで、調査を始める」と、日本で働いた経験のあるフランス人の男性警察官は説明する。
だが、伊藤氏はあきらめる代わりに、真っ向からこの事件を取り上げるよう高輪署の男性警察官たちを説得した。そしてそれを警察官たちは徹底的にやった。捜査を終えた警察官たちが達した結論は、山口氏は逮捕されるべきというものだった。
ところが、この努力は菅義偉官房長官に近しい中村格警視庁刑事部長(当時)によって阻止されることになる。中村氏は、山口氏に逮捕令状を出さないことを決定したのだ。これは前例のない決定だ。その唯一の理由として考えられるのは、山口氏を日本の司法からかくまうことである。
その後、検察は山口氏の準強姦容疑を嫌疑不十分として起訴を取り下げる。だが伊藤氏は追求をやめず、損害賠償を求める民事訴訟を起こしたのである。あれから4年――。

日本は性犯罪に対する認識が遅れている

今回の伊藤氏の勝訴は、日本のみならず、世界中で大きく取り上げられた。これは日本における性犯罪に対する意識を変える第一歩となるという見方もある。だが、ほかの先進国と比べると、日本ではまだ性犯罪は深刻な問題と見なされていない。当事者となりやすい女性自身でさえもこの問題に関してあまり考えが及んでいない、というか当事者意識が著しく低いと感じる。
実際、何年にもわたる日本人女性とのカジュアルな会話のなかで、筆者は女性たちがこの話題を大変軽視していると感じた。伊藤氏の名前を出しても、彼女の戦いに共感を覚えない女性が数多くいることに気づいた。若い女性は夜間に年上の男と一緒にいるべきではないとか、そうした態度だから伊藤氏は自らを危険にさらしているのだ、と女性たちは指摘する。
日本の女性誌は伊藤氏の名前を出すことすらしない。今回の判決が日本で大きく報道されたのは確かだが、それはおそらく伊藤氏が海外で有名であり、もはや無視できない存在となったからだろう。
事実、今回の見事な勝利の後でさえ、伊藤氏は自身の国においてはまるで追放された人であるかのようだ。彼女が手がける仕事のほとんどは海外向けで、他国における女性問題を取材することに自身の時間を費やしている。
筆者が知る限り、伊藤氏は女性の日本の政治家からも大きな支援は受けてこなかった。判決が出された夜、立憲民主党の参議院議員田島麻衣子は、筆者も参加した集会に参加した唯一の政治家だった。伊藤氏の戦いはすべての日本の女性に関わることなのに。
伊藤氏の例は、性被害を受けたり、セクシャルハラスメントにあっているすべての日本人に勇気を与えるものだ。伊藤氏の戦いで重要なのは、彼女が「恥の負担」を変えたことである。恥ずべきは、被害者でなく、加害者である、と。

なぜ世界が注目するのか

伊藤氏の裁判が世界的に注目された理由は、起訴内容が揺るぎないものだからでもある。過去2年間にわたり、伊藤氏はその夜に何が起こったのかの供述において一貫性を示してきた。山口氏側の弁護団は、伊藤氏を嘘つきとか情緒不安定な女性として描写しようとしてきたが、伊藤氏の供述には重大な欠陥があると指摘することができなかった。
その夜に起こったことを証言して伊藤氏を支援しようという証人も何人か現れた。そのなかには、レイプが行われたとするホテルのドアマンもいる。このドアマンは、自分の仕事や評判にリスクが及ぶことを承知で、自分自身の目で見たことを供述しようと、伊藤氏の弁護団に連絡してきたのである。
伊藤氏の戦いに世界の関心が集まるより大きな理由は、彼女が自らの事件を日本における性犯罪をめぐる法的及び社会的状況を改善することを目的に用い、これを裁判所が認めたことである。伊藤氏は、「誰もが(性被害の)被害者、加害者、

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