会の名称「全ての生命を尊ぶ」ことはいうまでもなく、 地球や地球に生きる鉱物や水蒸気や植物、動物、人間を 含む宇宙全てにおけるあらゆる魂たちと統合をし、あらゆる魂たちが 愛と自由の元活躍出来ることを目指します。
2023年10月30日月曜日
脱炭素社会
(転載)過去数世紀にわたり、私たちは2.4兆トンの二酸化炭素(CO2)を地球の大気に加えてきた。2.4兆トンというのは、5220億台の自動車が1年間に排出するCO2の量に等しい。現在の世界の人口で考えると、1人当たり65台分になる。
ギャラリー:大気中のCO₂を除去する野心的な試みが始まった
こうして大気中に放出されてきたCO2を元あった場所に戻そうと、アイスランドの首都レイキャビクから30キロほど離れた、人けのない月面のような渓谷で奮闘する人物がいる。化学工学と貯留層工学の専門家で、アイスランド企業カーブフィックスのCEO(最高経営責任者)であるエッダ・アラドッティルだ。
今のところ戻せる量はごくわずかだが、将来的にはもっともっと大量のCO2を戻したいと考えている。人類は地下に眠る膨大な量の炭素を化石燃料として掘り出し、史上最も深刻な結果を招いた。化石燃料は現代文明に不可欠な動力源だが、今では災厄の源にもなっている。アラドッティルはCO2を地下深くに送り込むことによって、人類の活動による影響を軽減しようというのである。
アラドッティルのような科学者や起業家が今、大気中のCO2を除去する野心的な試みに着手している。米国には、樹木のようにCO2を吸収する人工の「木」を開発する工学者がいる。オーストラリアでは、著名な海洋学者が海藻を養殖して何十億トンものCO2を回収するという構想を語ってくれた。
スイスの大学では、ウルグアイ人の発明家が太陽光と空気だけで作った燃料の入った小瓶を見せてくれた。私が取材したなかでも、これは最も魅力的なCO2回収技術かもしれない。いつの日かこの技術が実用化されれば、炭素排出が実質ゼロの循環型エネルギーを利用できるようになり、CO2の増加に歯止めがかかる可能性があるからだ。
これらの試みの狙いは、大気中のCO2濃度を引き下げることだ。これは気候の専門家が地球の健全性を示す指標だと認める数値で、19世紀半ばに産業革命が始まるまで280ppmかそれよりわずかに低いレベルで何千年間も安定していた。今ではおよそ420ppmにのぼり、1850年と比べて50%ほども増加した。
増えたCO2は大気中に熱をため込む。その結果、地球の気温はどんどん上がり、危険なレベルに迫りつつある。炭素除去は気候変動の主要因を取り除く技術で、今後数十年間に規模を大幅に拡大すれば、CO2濃度引き下げに威力を発揮するはずだと、推進派は主張する。
一方で、この技術には懐疑的な声も多い。今はまずCO2の排出を大幅に減らすことが急務なのに、将来的に大気中のCO2をいくらでも減らせるようになるという希望的観測が広がれば、排出の削減努力がなおざりにされかねないというのだ。
この論争でよく使われるのが「モラルハザード」という言葉だ。これは、最悪の結果を避けられるとなれば、平気でリスクを冒し続ける人間の心理を表す用語である。一般の人たちはもちろんのこと、政策立案者も、厄介なCO2をなくせる魔法の解決策があると思えば、石油と天然ガスと石炭が今もどんどん採掘されていることをさほど気にかけなくなるだろう。
だが炭素除去の推進派は、今や世界は二つの対策を同時に進めなければならない状況に追い込まれているのだと主張する。これから排出するCO2を減らすだけでなく、すでに排出されたCO2の影響を減らす必要もある、というのだ。
「決定的な解決策というわけではなく、解決策の一つであるということです」とアラドッティルは言う。「私たちが使うエネルギーをすべて脱炭素化するために、まずやるべきことがこれだということなんです」
※ナショナル ジオグラフィック日本版11月号特集「大気中の炭素を減らす」より抜粋。
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