2022年7月29日金曜日

アエラ

旧統一教会の創始者・文鮮明は1968年、反共産主義を掲げる政治団体「国際勝共連合(通称、勝共連合)」を設立した。その時は日本が共産主義陣営と激しく対立した冷戦時代だったこともあり、勝共連合と自民党は協力関係を築いた。これを足がかりに、勝共連合は旧統一教会の“別動隊”として政界への関わりを深めていく。  元自民党本部情報局国際部主事で、福田赳夫元首相秘書だった中原義正氏はこう話す。 「私が自民党の中野四郎元国土庁長官の事務所で秘書を務めていた1970年代初期、20代の若い女性が突然、『何か、お手伝いすることはありませんか』と言って、議員会館の事務所にやって来ました。目がくりっとした愛くるしい容姿の女性でしたね。女性は『勝共連合の者です。岸信介先生にご指導いただいています』と言っていた。しばらく、事務所でコピーをしたり、お茶を入れたりする仕事をしていたけど、給料も出さず、タダで働いていました」  同事務所だけではなく、他の自民党議員の事務所にも、同様に20代と思しき勝共連合の女性が出入りしていたという。 「当時、安倍晋三氏の祖父・岸信介元首相の渋谷の自宅の隣に旧統一教会の本部がありました。統一教会にとっては、そこが日本の政界進出の足掛かりでした。岸元首相の系譜を受け継いだ清和会の国会議員の事務所を中心に、勝共連合の女性たちが入り込んでいきました。当時、私は清和会所属の国会議員秘書たちのまとめ役をしていたから、他の議員事務所からも、『うちの事務所にも来た』という話をよく聞きましたよ」  国会議員の事務所に押しかけて無償で雑事を請け負う20代の容姿端麗な女性たち――この“20代女性軍団”の狙いは何だったのか。 「事務所で気に入られて、議員の弱みを握り、情報を教団に上げる目的もあったのではないか。しかし、私の知る限りでは、色恋沙汰でおかしくなった国会議員がいるとは聞いたことがない。うちの事務所の女性は2日に1回のペースで来ていたけど、押しかけて来た人を正規に秘書として雇ったりはしないから、女性は自然と来なくなった」  政界ばかりではない。大学も“美女軍団”の標的になっているという。ジャーナリストの鈴木エイト氏はこう語る。 「東大の学生を旧統一教会に引き込むためにキャンパスに“美女”を送って、仕込んだという話は元信者から実際に聞きました。東大の旧統一教会系の学習サークルに容姿がきれいな女性信者を使って誘い、頭がよくて優秀な学生をスカウトする。そうやって優秀な人材を弁護士に育てたりして、教団の“頭脳”として囲い込む事例もありました」  大臣経験のある自民党衆院議員(中曽根派)の元秘書はこう話す。 「うちの事務所には、いつの間にか『世界日報』が毎日届けられていました。事務所で購読していたわけではないのに、ずっと入っていた。ほかの議員の事務所にも『世界日報』が入っていましたよ。そして、選挙になると、頼んでもいないのに旧統一教会系の団体の見たこともない人たちが応援に来ていました。黙々と選挙の支援をしてくれていたが、誰に聞いても、どこから来たのかよくわからなかったんですよね」  元東京タイムズ政治部長で、政治評論家の本澤二郎氏もこんなことがあったと明かす。 「岸信介元首相と親しい元大臣のところに知り合いの女性秘書がいたんですが、ある日、『今度、うちの事務所に入った運転手は勝共連合なのよ』と私にそっと耳打ちしてきたんです。その運転手は男性でした。統一教会は70年代にまず岸氏の周辺にいる議員から入り込もうとしていたのではないか。それから清和会に浸透し、じわじわと自民党全体に広がっていったのだと思います」  勝共連合のスタッフが国会議員事務所にやすやすと入り込めた背景について、元自民党政調会調査役で政治評論家の田村重信氏はこう指摘する。 「政治家は、誰であろうが選挙で応援してくれる人はありがたいのです。昔は、ヤクザだって断らない議員もいたくらい。支援者が1人減って、その1票が相手陣営に入ったら、2票マイナスです。応援を断ったら敵を利するだけですし、組織票は必要だからみんな必死ですよ。それゆえ、どこの宗教団体だって全部ウエルカムになってしまう。票をもらわないと当選できない政治家の切迫感は想像以上なのです」  前出の鈴木エイト氏によると、旧統一教会側もそうした政治家の心理をよくわかって行動しているという。 「旧統一教会系の団体は、政治家が地方議員の時から後援会組織に運動員を派遣しています。選挙のスタッフを数多く派遣して、マンパワーで議員を支えるんです。そうやって事務所に入り込み、議員の弱みまで握って、最終的には自分が選挙に出るというところまで構想を持っているのが旧統一教会なのです」  80年代後半から90年代前半にかけては、霊感商法などが社会問題化した旧統一教会。だが、教団の名称変更やマスコミ報道が下火になったこともあり、世間からネガティブなイメージは次第に薄れていった。 「2006年に安倍晋三氏が旧統一教会の友好団体である天宙平和連合(UPF)の大会に祝電を打った時以降、政治家が旧統一教会の関連団体主催の集会に出席したり、祝電やメッセージを送ったりしても、メディアは報じなくなりました。それゆえ、政治家と教団の関係性はなかなか表面化せず、問題にもされなくなった。議員たちも問題化しないから、何回もくり返すようになりました」  鈴木エイト氏は「旧統一教会と関わりを持った現職国会議員」と題した100人を超えるリストを作成し、メディアに提供した。国会議員が旧統一教会系の団体のイベントに参加したり、祝電やメッセージを送ったりした事例、旧統一教会系の新聞「世界日報」のインタビューを受けた政治家や献金を受けた国会議員をリストアップした(7月18日時点)。  このうち9割は自民党議員だったが、野党議員も含まれていたことは世間に波紋を広げた。  昨年9月、安倍氏は旧統一教会のイベント「神統―韓国のためのTHINK TANK2022 希望前進大会」にビデオメッセージを送り、「(文鮮明の後継である)韓鶴子総裁をはじめ、みなさまに敬意を表します」と述べた。 「安倍氏はあの日に限って統一教会との関係を隠しませんでした。翌日以降はビデオは公開しないとの条件でしたが、あの映像が拡散しても自民党にも、自身の政治生命にも、何の影響もないと思っていたのでしょう。逆に旧統一教会や関連団体は、安倍氏に近い議員たちから堂々と祝電をもらったり、祝辞を受けたりすることで、問題のない団体であるというお墨付きを得た。メディアも政治家と旧統一教会の関係を問題視して報じる姿勢は一切ありませんでした。それが今回の銃撃事件を生んだとしたら、政治家もメディアも検証されなければいけないと思います」(同) (AERA dot.編集部・上田耕司)

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